仕事が少なかった時期。安価な案件を受け続けた日々。深夜にも連絡が来る働き方。それでも槇野さんは、写真をやめたいと思ったことはない。苦しい時期を通り抜けたからこそ、今出会う人たちが「天使」に見える。言葉を丁寧に選ぶことで、丁寧な人と出会えるようになった。被写体にも、物にも、ポジティブな言葉をかける。

仕事が少なかった時期が、今の感謝を作った

──

独立してから、苦労もありましたか?

槇野翔太

6年くらい前はきつかったですね。仕事が少なくて、価格も安くて、深夜にも連絡が来るような状況でした。しんどかったです。

──

その時期は、どう乗り越えたんですか?

槇野翔太

乗り越えたというより、今思うと、その時期があったから今があると思っています。あの頃があったおかげで、今仕事で出会う人たちがみんな天使に見えるんです。「こんなにいい人ばかりいるんだ」と思える。仕事をもらえること自体が、本当にありがたいです。

仕事で出会う人たちが、みんな天使に見えるんです。

──

苦しい経験が、感謝の感性を高めたんですね。

槇野翔太

そうですね。あの時期を乗り越えたことで、「なんとかなるな」と思えるようにもなりました。カメラがあれば、なんとか撮れる。そういう感覚があります。

仕事とプライベートの境目がなくなってきた

──

今は、仕事とプライベートの感覚も変わりましたか?

槇野翔太

だいぶ境目がなくなってきましたね。いつも自分のままで行ける感じがします。

──

仕事の時だけ別人になるのではなく、自然体でいられる。

槇野翔太

そうですね。プライベートの自分が仕事にも出てきているからこそ、逆にプライベートもきちんとしなきゃなと思うようになりました。特に、言葉遣いや言葉の選び方は、ここ数年で丁寧になった自覚があります。

──

言葉を丁寧にすると、何か変わりましたか?

槇野翔太

丁寧な人と出会えるようになった感覚があります。自分のフェーズが上がったのかな、という感覚がありますね。

ゴシック調のスタジオで、被写体に向き合いカメラを構える槇野翔太さんの後ろ姿
現場に立つ槇野翔太さん。ライティングより先に、まず人と人として向き合う。その時間から、撮影は始まっている。

お弁当にも「美味しそう」「ありがとう」と声をかける

──

撮影の時も、言葉は意識していますか?

槇野翔太

意識しています。物撮りでもそうですね。お弁当を撮る時も、「美味しそう」と言いますし、「ありがとうございます」と声をかけます。

お弁当にも、美味しそう、ありがとうございますと声をかけます。

──

お弁当にですか?

槇野翔太

はい。そうすると変わると思っています。輝くと思うんです。もちろん光とか構図も探します。でも、言葉をかけることで、見え方が変わる感覚があります。

──

それは、人を撮る時にもつながっていますか?

槇野翔太

つながっていますね。ポジティブな言葉をかけると、ポジティブな反応が返ってくる。人も物も、そういうところがあると思います。

子どもへの声かけと、撮影現場はつながっている

──

言葉の選び方は、日常でも意識していますか?

槇野翔太

子どもへの声かけでも意識しています。息子が2歳くらいの時に、水を入れたコップを運びたいと言ったことがあったんです。その時に「こぼさないでね」と言うと、こぼしてしまうんです。でも、「うまく運べるかな」と言うと、こぼさない。

──

言葉の向け方で、結果が変わるんですね。

槇野翔太

そうですね。「りんごを想像しないでください」と言われると、一瞬りんごを想像してしまうじゃないですか。人間は、言われたものを一度思い浮かべてしまう。だから「こぼさないで」と言うと、こぼすイメージが浮かんでしまうんです。

──

撮影現場でも、否定形ではなくポジティブな言葉を使う。

槇野翔太

そうですね。昭和の時代は、いじったり、悔しさを引き出したりするコミュニケーションもあったと思います。でも今は、ポジティブな人にはポジティブに返ってくる時代になってきている感覚があります。それを結構大事にしています。

赤いキャップをかぶった槇野翔太さんと、膝の上で笑う息子さんのツーショット
子どもへの声かけも、撮影現場と地続き。言葉は、いつもやさしい方へ。

心が開く瞬間は、すーっと何かが抜ける感覚

──

撮影中に、相手の心が開く瞬間はわかりますか?

槇野翔太

感覚的な話になりますけど、あります。最近、息子と田植え体験に行って、裸足で田んぼに入った時に、体からすーっと何かが抜けていくような感覚があったんです。浄化されるような感じというか。

──

その感覚が、撮影中にもあるんですか?

槇野翔太

あります。撮っていて、相手が出てきた時に、こっちもすーっとなるんです。いい温泉に入った時のような、体に当たってシュワシュワするような感覚。その時は、いい写真になっていることが多いです。

──

それは、自分が引き出している感覚なんですか?

槇野翔太

自分が引き出しているというより、相手が出してくれているのかもしれません。その時の心地よさとか、空気感とかもあって、アスリートでいうゾーンみたいな感じになることがあります。

──

触れていないけれど、つながっているような。

槇野翔太

そうですね。触れていないけど、つながっている感じがあります。うまく言えないですけど、響き合っているような感覚です。

一番嬉しいのは、世界が広がること

──

カメラを続けてきて、一番嬉しかったことは何ですか?

槇野翔太

世界が広がることですね。写真をやっていると、普通に生きていたら出会えない人に出会える。行けない場所に行ける。知らなかった世界を知ることができる。それが一番嬉しいです。

──

逆に、カメラをやめたいと思ったことはありますか?

槇野翔太

ないですね。楽しいから。関わる人が辛かった時はあります。でも、カメラが辛いと思ったことはないです。壁を乗り越えたら、辛い人とも会わなくなりました。

カメラが辛いと思ったことはないです。楽しいから。

ベストな写真は「その日」

──

今まで撮った中で、ベストな写真はありますか?

槇野翔太

ベストは、その日ですね。

ベストは、その日ですね。

──

かっこいいですね。

槇野翔太

ずっと「これが一番良かった」と思い続けている写真は、あまりないかもしれません。反省はします。でも、前より良くなっていると思うんです。その時はいいと思っても、次の日には「もっといけたな」と思うこともある。見る人によっても違いますし、相性もあります。

──

過去の一枚に固執するのではなく、その日その日に向き合う。

槇野翔太

そうですね。ベストは、その日です。

毎日をめちゃくちゃ楽しく生きてみる

──

これから、どう生きていきたいですか?

槇野翔太

今、試していることがあります。計算とか、お金の管理とかは苦手なんです。将来の計画を細かく立てるのも得意ではない。でも、それに一喜一憂するのがめんどくさくなってきたんです。だから、毎日をめちゃくちゃ楽しく生きていったらどうなるか、というのを試しています。

毎日をめちゃくちゃ楽しく生きていったらどうなるかを試しています。

──

毎日をめちゃくちゃ楽しく生きる。

槇野翔太

はい。家族のある立場として、それが良いのかはわからないです。でも、今はそうやって生きようとしています。もちろん、財務管理など、自分にできないところを支えてくれる仲間がいたらありがたいなと思います。でも、これからどう生きていくかで言うと、めちゃくちゃ楽しく毎日を生きようとしています。

自分の利益のためだけに嘘をつかない

──

生きていく上で、大事にしていることは何ですか?

槇野翔太

自分だけの利益のために嘘をつかないことです。

自分だけの利益のために嘘をつかないことです。

──

自分だけの利益のために。

槇野翔太

はい。他人の利益になるなら、嘘をついてもいいと思っています。相手を前向きにする言葉とか、相手のためになる言葉はあると思うので。でも、自分の保身や、自分だけが得をするための嘘はつかないようにしています。それをすると、愛がなくなると思うんです。愛がなくなると、人間としての魅力がなくなると思っています。

──

写真と生き方が、つながっていますね。

槇野翔太

そうですね。写真だけじゃなくて、どう生きるかが大事なんだと思います。

ライブシューティングという新しい挑戦

──

これからの活動として、ライブシューティングの話もありましたね。

槇野翔太

はい。2.5次元俳優さんのライブシューティングを予定しています。観客の前で撮影して、その写真をプロジェクターに映していくような形です。撮影しながら話を聞いて、撮った写真を見ながら、その人の魅力や背景にも触れていく。

──

写真が生まれる過程そのものを見せるんですね。

槇野翔太

そうですね。あまりそういう形でライブシューティングをやっている人はいないと思うので、面白いコンテンツになるかもしれません。

──

今後は、動画や記事として撮影プロセスを残していく可能性もありますね。

槇野翔太

そうですね。撮影中に何を考えているのかを残せたら面白いと思います。これからカメラマンを目指す人にとっても、参考になるかもしれないですね。

応援してくれる人と、次の景色へ

──

最後に、槇野さんにとって写真とは何でしょうか?

槇野翔太

写真は、世界を広げてくれるものですね。カメラがあったから、人と話せた。カメラがあったから、知らない場所へ行けた。カメラがあったから、師匠と出会えた。カメラがあったから、今の自分と家族がある。

──

その写真が、今度は誰かの世界を広げるものになっていく。

槇野翔太

そうなったら嬉しいですね。写真を通して、その人の中にあるものが出てきたり、その人自身が少し前向きになれたり。そういう瞬間に関われたら嬉しいです。

──

これからも、毎日をめちゃくちゃ楽しく生きながら。

槇野翔太

はい。愛を持って、人と向き合っていきたいです。

愛を持って、人と向き合っていきたいです。

春の川辺で腰を落とし、まっすぐにファインダーを覗き込む槇野翔太さん
カメラを通して人と出会い、相手の奥にある光を信じ、シャッターを押す。だから槇野さんは、今日も写真を撮る。

槇野翔太さんにとって、写真は世界を広げるものだった。そして今、その写真は、誰かの世界を広げるものになろうとしている。その一枚が、誰かの心を動かすかもしれない。誰かの人生を少し前に進めるかもしれない。毎日を、めちゃくちゃ楽しく生きながら。愛を持って、人と向き合いながら。